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八ッ場ダム水没予定地、老舗旅館に最後の客(読売新聞)

 八ッ場ダム(群馬県長野原町)の水没予定地にある川原湯温泉で、生活再建の見通しが立たないとして宿泊営業をやめる老舗「柏屋旅館」が29日、最後の客を受け入れた。

 休業が報じられて以降、惜しむ客が多く訪れていたといい、この日は、四十数年ぶりという女性客が思い出を胸に宿泊した。

 東京都調布市から長女(28)と泊まりに訪れた元NHKディレクターの羽田野歌子さん(60)は、受け付けで同旅館の豊田幹雄社長(43)に「これ、再開後にと思って」と、紙袋に入れた招き猫を手渡した。羽田野さんは、高校3年の夏休み以来の来館という。

 当時、群馬大医学部の教授をしていた父親が豊田社長の祖母である先代のおかみと親しく、「涼しくて勉強するには良い環境だから」と招かれて1週間宿泊した。羽田野さんは「旅館に1人で泊まるなんて、文士みたいなぜいたくだと思って、落ち着かなかった」と苦笑いしながら振り返る。

 豊田社長は、現在は従業員寮になっている、当時羽田野さんが泊まった部屋を案内。羽田野さんは懐かしみながら、「八ッ場のニュースを見るたびにここを思い出したの。今日、来ることが出来て本当に良かった」。窓に目を向け、「でも、素晴らしい景色だったのに、工事でだいぶ変わってしまい、温泉街も寂れてしまった」と嘆息すると、豊田社長は「(中止は)もっと早くなら良かった。みんな待たされ、気持ちは限界です」と、温泉街の窮状を訴えた。

 同旅館は代替地への移転後に営業を再開する方針で、豊田社長は生活再建事業の行方を心配する。取材に対し、26日に国土交通省が発表した新年度公共事業予算の個所付けで用地補償費の具体額が示されなかったことに触れ、「とにかく、早くしてくれなければ」と祈るようにつぶやいた。

 豊田社長は「感傷にひたっていては、おもてなしできない」と複雑な心境を語り、取材の合間にも来館する客の案内に立ち、いつもと変わらない穏やかな笑顔と物腰での接客に努めていた。この日は、6組約40人が宿泊した。(武田潤)

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